ドクターの声 | 【公式】パーソナルiPS

日本の再生医療を
多方面から推進

医療法人社団DEN理事長
みいクリニック代々木院長
大阪大学大学院医学系研究科招へい教授
事業監修 宮田 俊男先生
(シニアメディカルオフィサー)

宮田先生(以下、宮)、リプロセル(以下、R)

R: 宮田先生のご経歴について、詳しく教えていただけますか?

宮: 私はもともと理工学部で、宇宙開発をするエンジニアを目指して勉強していました。しかし、大学の研究室選びの際に、医療機器開発に魅せられ、人工心臓を開発することになりました。自ら人工心臓を開発していく中で、この人工心臓を実際の治療に役立てたいと考えるようになりましたが、エンジニアとしての立場では、実際に治験を行うことができません。そこで私は、医学部に編入し、医師として人工心臓の開発を進めることにしました。

R:  エンジニアから医師へと思い切った進路変更をされたのですね。

宮: そうですね。実際に医師の道へ進み、心臓外科医として心疾患の治療を行いながら、人工心臓や再生医療の実用化も進めていきました。しかしながら日本には、新しい治療方法を効率よく承認する制度がなく、なかなか実用化に至りませんでした。そのため私は、厚生労働省に入省し、薬事法の改正や、世界で初となる再生医療新法の整備等から、日本の医療改革に従事しました。

R: 制度の面からも様々な改革を行ってこられたのですね。先生の開発された人工心臓はどうなったのでしょうか?

宮: 私が治験で関わった人工心臓の大部分は、正式に承認を受け、今でも患者様の治療に使用されています。長い道のりでしたが、自分が関わった研究や行政の仕事を患者様の治療に役立てることができとても嬉しいですね。

現在使われている人工心臓は、全ての心臓機能を模倣できているわけではありません。人工心臓は、患者様の完璧な心臓の代わりになることはできず、いずれ心移植が必要になってしまいます。それでも人工心臓が治療の選択肢として、患者様の状態に合わせて治療が選べるというのはとても大きな前進ですね。

R: 心疾患の治療において先生はとても重要な活躍をされたのですね。
他の分野での再生医療の進捗はいかがでしょうか?

宮: 今後全ての分野で再生医療は進んでいくでしょうね。その中でも現在特に進捗が目覚ましい分野は、目や心臓、脳でしょうか。例えば、加齢黄斑変性といって加齢とともに視力が低下していき失明に至ることもある目の病気がありますが、これは回復が難しく患者数も多い病気です。この病気がiPS細胞を使った再生医療で、回復できる可能性が出てきています。

R: これまで回復が難しかった疾患も、再生医療の技術によって回復する可能性が出てきているのですね。

例えば、心臓の分野であれば、足の筋肉から取り出した幹細胞やiPS細胞を使った細胞シートを心臓に貼り付けることで、心機能を回復させる技術が進んできていますね。さらに脳の分野では、パーキンソン病の治療にiPS細胞から分化させた細胞を使う技術が研究されています。

R: 様々な疾患に対して再生医療の研究が進んでいるのですね。

宮: パーソナルiPSのように、ご本人の細胞を保管し、将来の病気やケガに備えるサービスも今後メジャーになっていくことも考えられます。前もってiPS細胞を保管しておけば、治療までにかかる時間を短縮することができますので、一刻を争う現場では有望な方法になるかもしれません。例えば、お子様の小さいときに、パーソナルiPSを利用して、iPS細胞を保管しておけば、万が一事故で脊髄損傷になってしまったとしても、すぐに治療に取り掛かれることで、後遺症の程度を下げられる可能性があります。

R: リスク対策として、各自がご本人のiPS細胞を保管することはメリットがあるということですね。そういった新規の技術・サービスを含めて、今後の再生医療はどうなっていくでしょうか?

宮: 自分自身のiPS細胞ストックを持ち、そのiPS細胞を使う再生医療が、広がる可能性があると考えられます。またそのiPS細胞を使って、より有効で副作用が抑えられる医薬品を選択することも将来、広がるでしょう。全ての分野で、個人個人に合わせて治療方法や使う薬をカスタマイズしていく時代になっていくでしょうね。例えば、重度の肝硬変や肝がんになってしまっても、ご本人のiPS細胞を用いて臓器の機能を再現したミニ肝臓を移植する治療が将来、期待されます。

また、個人のiPS細胞を保管し、様々な大きな病気やスポーツや交通事故等による外傷になるべく早く再生医療ができるようになれば、大きな後遺症が残るリスクが減ることも考えられます。再生医療とリハビリを組み合わせて、また自分の足で歩いて旅行が楽しめるようになる、そういった希望をかなり持てるようになってきていると感じます。

現在日本は、人口が年々減少しており、一人一人がいきいきと生活を送り、活躍できることは、大変重要なことです。今後医療が発展していくことにより、万が一大きな病気や命に係わるケガをしてしまっても、再生医療で回復させる研究が進めば、また元気にもとの生活に戻って仕事や学生生活が続けられる可能性があります。そうした治療の選択肢の一つにiPS細胞を使った再生医療が入るようになっていくと思います。

人工肝臓で
ドナー不足解消を目指す

慶応義塾大学医学部  一般・消化器外科(肝胆膵・移植)専任講師
内視鏡手術トレーニングセンターディレクター
AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラム研究代表
AMED先端計測分析技術・機器開発プログラム研究代表
MatriSurge(株)代表取締役
八木 洋先生
(医学博士)

八木先生(以下、八)、リプロセル(以下、R)

R: 八木先生の研究について、詳しく教えていただけますか?

           

八: 私は、病気になってしまった肝臓を、細胞から作製した健康な肝臓に取り換える研究を行っています。肝臓は、タンパク質を合成したり、毒素を分解したりと、多様な機能をもつ臓器です。少しのダメージでは、ほとんど症状が出ないため、「沈黙の臓器」と言われています。

そんな肝臓であっても、脂肪肝の進行、過度のアルコール摂取やウイルス感染等により、肝炎を発症してしまうことがあります。肝炎が長く続くと肝硬変になり、投薬での治療が難しくなることから、肝移植を検討することになります。

R: 肝硬変になってしまうと、移植手術が必要になるのですね。移植手術を受けるのはとても大変だという話を聞きます。

八: そうですね。あらゆる移植手術には、健康な臓器を提供するドナーが必要です。肝臓は臓器の中で最も再生能力が高いことから、一部分を切り取って移植する生体移植が可能な臓器です。しかしながら、ご本人にぴったり合うドナーを見つけることは難しく、多くは脳死の方から提供される臓器を待つことになります。患者様は、移植医療が受けられない状態が続くことに加え、脳死を待つ状況に置かれ、肉体的・精神的な負荷がとても大きくなります。

R: そこで先生が研究されている、再生医療での肝移植が注目を集めているのですね。

           

八: その通りです。私の研究は、iPS細胞から作製した肝臓の細胞を大量培養し、コラーゲン骨格の中に充填し、人工の肝臓として機能させることを目標にしています。この人工肝臓の作製が可能になれば、ドナー不足が解決され、これまで治療できなかった患者様を治療できるツールになると考えています。

R: 現在、先生の研究はどの段階まで進んでいるのでしょうか?
今後解決していく課題はありますか?

八: 現在は、非臨床試験の途中で、まだヒトを治療できる段階ではありません。今後10年間で、実際に患者様を治療できるところまで進めたいと考えています。

人工肝臓の作製についての課題はまだまだ沢山ありますが、1つは患者様に適合し、体内で悪さをしない細胞を選ばなくてはならないということです。ひとえに細胞と言っても様々で、患者様ではない別の方から作製したiPS細胞由来の肝臓細胞が、患者様の身体に適合するとは限りません。患者様ご本人の細胞から作製したiPS細胞を用いて人工肝臓を作ることが理想であるという考え方もありますが、費用面や準備期間の長さから、今は現実的ではありません。しかし今後、治療に使える状態のiPS細胞が保管されていて、スムーズに人工肝臓が作製できるような状況になれば、そういった夢の治療が現実になっていくかもしれません。

R: 患者様にぴったり合う細胞を使って、スムーズに治療準備ができることが重要なのですね。
先生のご研究以外に、今後進みそうな再生医療分野はありますか?

八: 私は、医療用素材を開発するベンチャー企業を立ち上げたこともあり、細胞を使わずに、怪我や病気で傷ついた体の部分を、新素材を使って修復する治療方法も重要だと考えています。一方で、実際には細胞や臓器の移植が必要な重い病気もありますので、肝移植をはじめ、様々な臓器の再生医療も進んでいくでしょう。肝臓以外にも、臓器そのものに運動性のない膵臓や腎臓は、人工臓器を作製できる可能性が比較的高いため、再生医療のターゲットになり得ると思います。

その他には、美容領域にも再生医療は応用されていくかもしれません。iPS細胞から他の細胞へ分化させる過程を厳密にコントロールできるようになれば、皮膚のダメージを根本的に治すことも可能になると考えられます。

R: 様々な方向から、これまで治せなかった病気や怪我の治療方法が研究開発されているのですね。今後の発展が楽しみです。
最後に、先生が考える「再生医療の未来」は、どんなものでしょうか?

八: 将来、技術の進歩により、病気の診断技術が向上すると、早い段階で何の病気になるか予測ができるようになります。そうすると、病気になってしまう前に、その臓器の機能を強くしたり、場合によっては臓器を取り換えたりする検討ができるかもしれません。再生医療は、そういった「病気の予防」から実際の治療まで幅広くカバーできる、優れた医療になり得ると考えています。

病気の治療というのは、その患者様にとって適切な治療を、適正な時期に行うことが重要です。治療までにかかる時間が長くなれば、手遅れになってしまうこともあります。そこで、それぞれの方が自分のiPS細胞を保管しておくことができれば、治療までの準備期間を大きく短縮することになるため、治療戦略として有効になっていくと考えられるかもしれませんね。

また、もっと大きな視点でみると、個別化医療もより進んでいくだろうと思います。現在、買い物や食事など自宅に居ながら様々なサービスが受けられる時代になっています。その中で、医療サービスだけが、未だにクリニックや病院に足を運ばなくては受けられません。今後は、スマートフォンやパソコンがあれば、在宅で適正な医療サービスが受けられる時代になっていくのではないかと考えています。