iPS細胞はがんをどのように治す?「CAR-NKとは?」 | 【公式】パーソナルiPS

COLUMNコラム

2023年5月8日

iPS細胞はがんをどのように治す?「CAR-NKとは?」

前回のコラムでは、iPS細胞から誘導したリンパ球を利用した、がんの免疫療法について解説しました。複数種類あるリンパ球の中でも特にがん細胞の殺傷能力が高いと思われる「NK細胞」に注目が集まっており、その効果が期待されています。

そしてがんの免疫療法の効果をさらに高めようとする研究が進んでおり、その中に「CAR-T細胞療法」「CAR-NK細胞療法」というものがあります。この記事ではCAR遺伝子を用いたがん免疫療法について解説します。


iPS細胞を利用したがん免疫療法をさらに高めるために

iPS細胞から誘導されたリンパ球は、がん細胞を異物として認識すると、体内から排除するためがん細胞を攻撃します。ところが、がんは人の免疫を抑制する仕組みをいくつも持っており、十分にリンパ球が働いてくれないことがあります。またがんにも様々な種類があり、がん細胞の構造や性質が正常な細胞と比較して大きな違いがないために、異物として認識されづらいことがあります。

そのようながんに対する「活性化自己リンパ球療法」は効果を発揮しづらく、課題となります。この課題を解決するために有用なのが「免疫チェックポイント阻害薬」です。がんが免疫を抑制する部分を阻害することで、免疫が働きやすくするお薬です。いわば、免疫にブレーキがかかるのを防ぐ方法です。

もう一つ、免疫療法の効果を高めるための技術が「CAR遺伝子の導入」です。CARというのは「キメラ抗原受容体」のことで、がん細胞に含まれるたんぱく質などの目印を認識するために使用します。CAR遺伝子を導入されたリンパ球はがん細胞を積極的に認識するようになるため、スムーズに攻撃を開始します。いわば、免疫にアクセルをかける方法と言えます。


CAR-T細胞療法による血液がん治療

最も有望な次世代がん治療と言われるのが「CAR-T細胞療法」です。T細胞というのはリンパ球の一種で、がん細胞を攻撃する能力を持った細胞です。T細胞にCARを発現させて、がん細胞を認識できるようにしています。

CARの技術はがんが正常な細胞と比較して、明らかに異なる特徴を有している時に最も力を発揮します。リンパ系の血液がんは様々な特徴的な物質を有しているため、それらをターゲットとしたCAR遺伝子を導入することで、T細胞の働きを高めることができるのです。

サイトカイン放出症候群という副作用の可能性があるため、慎重な対応が必要となりますが、その高い効果からCAR-T細胞療法は日本でも2019年に承認されました。副作用への対処法も研究が進んでおり、安全性が確保されるようになってきています。


iPS細胞由来のCAR-NK細胞によるがん治療

CAR-T細胞療法として発展したCARの技術は、NK細胞への応用が可能です。強い殺傷能力を持ったNK細胞ががん細胞を素早く認識することで、より力強い免疫反応が起きるはずです。

NK細胞を培養し増やすことは簡単ではありませんが、iPS細胞から誘導することができればその問題もクリアできます。iPS細胞に由来するNK細胞にCARを発現させ、がんを治療しようとする試みが既に始まっています。

アメリカにあるFate Therapeuticsというバイオ医薬品会社では、多発性骨髄腫という血液のがんに対してiPS細胞由来CAR-NK細胞による開発を行っています。CARは多発性骨髄腫の細胞が有するBCMAという抗原をターゲットとしており、NK細胞は速やかにがん細胞を認識することができます。

京都大学iPS細胞研究所では、iPS細胞由来CAR-NK細胞を使用して卵巣がんの治療を行う治験を実施しています。日米の研究とも、今後の成果が期待されます。

iPS細胞によるがん治療は理論的にはあらゆるがんに応用できると考えられます。iPS細胞はどんな細胞にでも分化することができるという意味で「万能の細胞」と呼ばれていますが、応用可能な治療が増えることでさらに万能性が増している、と捉えてもいいのかもしれません。

 
   
 

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