最終更新日: 2024年05月13日
iPS細胞を使った治療研究が本格的に動き始めています。
未来の治療が今、現代の治療になろうとしています。
iPS細胞を使った再生医療で有効になるのが「パーソナルiPS」です。
パーソナルiPSでは、今のうちに自分の細胞からiPS細胞をつくって長期保存し、治療が必要になったときにいつでも使えるようにしておきます。 パーソナルiPSなら、遺伝子変異がないiPS細胞や、遺伝子変異が最小限のiPS細胞を使って治療できるので、より確実な再生医療を受けられるようになるでしょう。
拒絶反応のリスクを低減〜だから自分の細胞が良い
iPS細胞を使った再生医療として、人の細胞からiPS細胞をつくり、さらにそこから臓器の細胞をつくる治療法が期待できます。
例えば、心臓の病気を発症したとします。このときiPS細胞があれば、これで心臓の細胞をつくって心臓に移植することができます。
他人の細胞からつくったiPS細胞だと、それを心臓に移植するとき、体が「それは異物だ」と反応してしまうことがあります。そうなると免疫機能が異物を除去しようとします。これが拒絶反応です。
iPS細胞が拒絶されてしまうと心臓を治療することはできません。
パーソナルiPSは自分の細胞からiPS細胞をつくっているので、体が「異物だ」と反応しにくくなり、拒絶されるリスクが減ります。
パーソナルiPSは「自分のもの」なので「自分の体」は自然にそれを受け入れるのです。
将来、iPS細胞を使った再生医療を受けるには、今の自分の細胞からiPS細胞をつくって保管しておいたほうがよいでしょう。 その理由を解説します。
なぜ今、細胞を採取したほうがいいのか、なぜ若いうちのほうがよいのか
若いうちにiPS細胞をつくって保管したほうがよいのは、「元気な細胞」のほうがよりよいiPS細胞をつくることができるからです。
それでは、「元気な細胞」の対極、「元気でない細胞」とは、一体どのようなものでしょうか? 真っ先に挙げられるのが、「遺伝子が変異した細胞」です。年を取ると細胞の遺伝子に変異が蓄積され、iPS細胞の質を低下させるリスクがあります。
例えば、がん細胞は遺伝子が突然変異した細胞です。がんのリスクが年齢が上がるほど高くなるのは、がんに関わる遺伝子が突然変異する確率が高くなっていくからです。
iPS細胞をつくるなら、少しでも若い、今の自分の細胞でつくることをおすすめします。
歯または尿からつくれる
細胞の採取は、以前は採血したり手術したりする必要がありました。これは体に負担がかかります。
パーソナルiPSでは、不要になった歯、または尿から細胞を採取するので、体に負担をかけることなく誰でも簡単に採取できます。
再生医療に適した方法でつくる
人の細胞からiPS細胞をつくるには高度な技術が必要です。その技術は変化と進化を続けてきました。
そして今、ようやく安全で確実な技術が完成しました。 それは、パーソナルiPSでも使っているRNAリプログラミング法です。
■RNAリプログラミング法によるiPS細胞作製の3つのステップ
RNAリプログラミング法は3つのステップでiPS細胞をつくります。
採取した人の細胞に「iPS細胞をつくるための情報」が入ったRNAを取り込ませます。
RNAの情報を翻訳し、細胞を初期化(リプログラミング)します。これで様々な細胞になる能力を持った「万能細胞」であるiPS細胞になります。
RNAは、人の細胞の核のなかに入らないので、核のなかのDNAはダメージを受けません。DNAがダメージを受けない方法なので、安全といえるのです。
RNAリプログラミング法は、安全で質の高いiPS細胞をつくる方法といえます。
日米で保管して「長期化リスク」を分散
パーソナルiPSでは、1人の方のiPS細胞を大量につくります。
そしてそのiPS細胞を2つにわけて、日本とアメリカで保管します。
アメリカの保管場所はメリーランド州にあるバイオバンクで、ここは大手製薬会社など1,000以上の企業・研究機関から細胞を預かっています。
パーソナルiPSを使ったiPS細胞・再生医療は、息の長い取り組みになります。今、細胞を採取してiPS細胞をつくっておいて、将来、病気が発症したときにそれを使って治療をします。
したがってここには「取り組みが長期化するリスク」が発生してしまいます。長期化リスクとは、自然災害や人災に遭う可能性が高くなってしまうことです。
しかしiPS細胞を日本とアメリカで保管しておけば長期化リスクをかなり軽減できます。