コラム

再生医療と保険適用-iPS細胞は保険適用される?

2024.5.7

2006年にiPS細胞が登場し、2013年には世界初のiPS細胞を用いた臨床研究が行われるなど、医療界では様々な分野で再生医療の研究開発が進んでいます。ヒトを対象とした治療が実際に行われている中、いよいよ再生医療の実用化の段階が近づいているといえるでしょう。

新たな治療が実用化されるかどうかには、治療にかかる費用が重要な因子となります。いくら優れた治療法でも、患者さんがその費用を負担することができなければ、治療を行うことはできません。患者さんの費用負担を減らす重要な鍵となるのが、保険適用です。

この記事では再生医療と保険適用について紹介します。

そもそも保険適用とは

日本では、国民が等しく医療を受けることができるように、国民皆保険制度といって全ての人が公的医療保険に加入しています。公的医療保険とは、サラリーマンの人などが加入する被用者保険、自営業の人などが加入する国民健康保険、75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度があります。

受けた検査や治療が公的医療保険に認められていれば、患者さんの自己負担は1~3割になります。負担割合は年齢や加入している保険の種類、収入などによって異なります。残りの費用は税金などによって賄われているのです。

一方公的医療保険に認められていない医療の場合、自由診療、または自費診療と呼ばれ全ての費用を患者さん自身が負担することになります。自由診療の例としては、美容整形などがあります。

公的医療保険に認められている、認められていない、で患者さんの負担は大きく異なります。この「公的医療保険に認められている」がすなわち「保険適用」です。新たな治療が保険適用となれば、治療にかかる費用の大部分が公的医療保険から支払われるため、多くの患者さんが治療を受けることができるようになるのです。

再生医療は細胞の採取や培養など特殊な技術を必要とするため、多額の費用がかかります。患者さん自身が負担するのは現実的ではありません。しかし保険適用となるには治療の有効性や安全性が証明されなければなりません。現在も多くの再生医療が保険適用を目指し、基礎研究や臨床試験、治験が行われています。

保険適用されている再生医療等製品

再生医療はまだまだ未来のもの、というイメージがあるかもしれませんが、実はすでに保険適用されている再生医療が存在します。保険適用を検討する上での再生医療は「再生医療等製品」と呼ばれ、「再生医療製品分野」と「遺伝子治療分野」に分けられます。

再生医療等製品は現在までに約20種類が保険適用となっています。治療法の確立が難しい希少疾病を対象とした再生医療等製品が優先的に審査され、徐々に範囲が拡大しています。今後も科学的な根拠や治験の結果を考慮して、保険適用が判断されていきます。

現在までにiPS細胞を用いた再生医療等製品で、保険適用されているものはありません。しかし、治験の段階にあるiPS細胞由来の細胞医薬品は複数あります。

「治験」というのは、製造販売承認を得るために行われる臨床試験です。「臨床試験」は新しい治療法や診断法の有効性や安全性を調べる研究であり、「治験」の前段階も含んでいます。治験の段階にある、ということは保険適用に近い位置にある、という意味です。

治験の段階にあるiPS細胞を利用した治療には、パーキンソン病や虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、心不全、卵巣がんなど、必ずしも希少ではない、多くの患者さんを対象としたものが含まれています。iPS細胞による治療が徐々に、身近なものになってきているといえるでしょう。

 
   
 

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