最終更新日: 2024年05月13日
iPS細胞は体にある細胞を元につくられます。体には数え切れないほどの細胞がありますが、iPS細胞をつくることのできる細胞と、そうではない細胞があります。iPS細胞をつくることのできない細胞として、前回のコラムでは「生殖細胞」に注目して紹介しました。
今回のコラムでは「iPS細胞をつくれる細胞」について紹介します。iPS細胞をつくる元にされることが多いのは、血液や皮膚に含まれる細胞です。特に血液は多くの専門機関や医療者が採取方法に慣れていることから、利用されやすい細胞源です。
このコラムでは、血液とiPS細胞について紹介します。
血液の成分と働き
人の体には約5リットルの血液が流れています。そのうち約半分は血球です。血球というのは血液に含まれる主な細胞成分であり、赤血球、白血球、血小板の3系統があります。赤血球は酸素や二酸化炭素の運搬を、白血球は外敵から体を守る免疫機能を、血小板は出血を抑える役割を担っています。
血液に含まれる血球以外の成分は血漿です。血漿の約90%は水ですが、残りの10%にはタンパク質や無機塩類、糖質、脂質が含まれています。タンパク質には血液の浸透圧を維持するアルブミンや、白血球と連動して免疫を担当する免疫グロブリン、血小板と連動して止血する血液凝固因子などがあります。
血液も血漿もそれぞれが重要な役割を担っており、体を維持するのに欠かすことのできない成分です。
血液からiPS細胞をつくる
採血検査は多くの医師や看護師、検査技師がその手技に習熟しているため、血液は体から取り出すことのできる有力な細胞源です。そのため、iPS細胞をつくる元として利用されることが多いのです。
血液には細胞が多く含まれています。特に白血球は細胞として増殖性があることから、iPS細胞を作る元として優れています。また血管を構成する成分に血管内皮細胞という細胞があり、血液中に流出しています。血管内皮細胞もその増殖性からiPS細胞作成に適しています。
一方で、血漿に含まれる固形成分、つまりタンパク質や無機塩類、糖質、脂質といった成分には細胞が含まれないためiPS細胞をつくる元にはなりません。たとえ細胞であっても、増殖性が低い、または増殖しない細胞からiPS細胞をつくることはできません。
iPS細胞をつくることのできない血液の細胞に、赤血球があります。次回のコラムで詳しく紹介します。
血液からつくったiPS細胞をストックしておく
既にiPS細胞の実用化に向けて、血液を利用する動きがあります。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」として、血液から作成したiPS細胞をストックするプロジェクトを立ち上げました。特殊な白血球の型(HLA)を持った人の血液を採取し、拒否反応の起きづらいiPS細胞をつくって貯めておくという試みです。このプロジェクトは現在も続いており、京都大学iPS細胞研究財団(CiRAF)が引き継いでいます。
iPS細胞の実用化、普及の課題となるのがiPS細胞をつくるのにかかる時間です。2014年に世界で初めてiPS細胞から作製した組織を移植する手術が行われましたが、本人(滲出型加齢黄斑変性の患者さん)の皮膚を採取し網膜の細胞を作製するのに約1年の歳月を要したそうです。現在でも、一般的にiPS細胞を作製し品質を保証するには、数ヶ月~半年かかります。
病気やケガはいつ起こるか分かりません。必要な時すぐ使えるようにするために、iPS細胞をあらかじめストックしておく方法が必要です。そこで、血液からつくるiPS細胞がその役割を果たすのです。
現在CiRAFが行っているプロジェクトは他人のiPS細胞(拒否反応が起きづらい型)をストックしておく試みです。一方、自身の細胞からつくったiPS細胞であれば拒否反応が起きることはありません。自分だけのiPS細胞を作ってストックしておく、それがパーソナルiPSです。将来のため、万が一の事態に備えるためにご検討されるのはいかがでしょうか?
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