最終更新日: 2024年05月13日
「iPS細胞をつくれる細胞とつくれない細胞」のコラムとして、今回は「尿」を紹介します。
血液や皮膚から作製されることが多いiPS細胞ですが、尿からも作製することができます。尿は日頃から排出しているものであるため、血液や皮膚の採取に伴う負担がないというメリットがあります。
一方で「尿からのiPS細胞で大丈夫?」という疑問があるかもしれません。この記事では尿とiPS細胞について紹介します。
尿はどうやって作られる?
尿は腎臓で作られます。腎臓には非常に多数の毛細血管があり、そこで血液を濾過して尿の元が作られます。尿の元は「尿細管」という細い管を流れていきます。尿細管を流れる間、尿の元から塩分やたんぱく質など必要な成分が再吸収され、残ったものが尿になります。
腎臓で作られた尿は尿管を通って膀胱に届きます。膀胱に尿がたまると尿意を感じ、「尿道」を通って体外へ排出されます。これらの構造を泌尿器と呼び、尿を作り出し体外へ効率よく排出するため非常に理にかなった構造になっています。
尿からiPS細胞を作れるのはなぜ?
尿の90%以上は水分です。他に食塩や尿素、アンモニア、クレアチニンなどの物質が含まれます。これらは体の老廃物と言える成分で、エネルギー代謝などによって生み出されています。
それでは体の老廃物からiPS細胞を作るのでしょうか?いいえ、そうではありません。iPS細胞は体の細胞から作られます。どんな細胞でもいいわけではなく、染色体の少ない生殖細胞や、核のない赤血球からは作ることができません。
尿からiPS細胞を作ることができるのは、尿に生きた細胞が微量ながらも含まれるからです。その細胞は尿の通り道である尿細管や尿道からもたらされます。尿細管や尿道は体調を一定に保つのに重要な役割を果たしており、生きた細胞で形成されているのです。
尿を遠心分離してこの生きた細胞を抽出すると、iPS細胞の材料にすることができます。
iPS細胞の材料が尿で大丈夫?
尿に含まれる細胞を利用してiPS細胞を作るという理屈は分かっても、「尿で大丈夫?」という疑問があるかもしれません。それは、尿はなんとなく汚いもの、というイメージがあるからではないでしょうか?
尿は、汚いものではありません。尿の大元は血液です。人の血液は体中に行き渡り、健康な状態では厳密に無菌状態に保たれています。腎臓から始まる泌尿器も原則として無菌状態にあるため、尿から作られたiPS細胞が汚い、ということはないのです。
iPS細胞のため採尿する時の注意点
しかしながらiPS細胞作製のため採尿する場合には、雑菌の混入に注意が必要です。菌が混入すると細胞を培養する過程で菌が増殖してしまい、iPS細胞を作製することができなくなってしまいます。
雑菌が混入する主な原因は尿道口付近と手に存在する雑菌です。肛門に近く閉鎖された環境にある尿道口や、色々な所を触る手には、多くの菌が存在します。そのため採尿する際には、複数回尿道口付近の洗浄を行い、手には手袋を着用しアルコール消毒を行います。
また、尿が極端に薄い場合には細胞を採取するのが難しく、iPS細胞の作製がうまくいかないことがあります。水分を大量に摂取したり、何回もトイレに行ったりした後の尿は薄くなっているため、注意が必要です。
パーソナルiPSにお申込みいただいたお客様には、採尿手順書をお渡ししています。具体的な採尿方法や注意点について、イラストを交えてわかりやすく解説していますのでご参照ください。
iPS細胞をつくれる細胞の例として、尿に含まれる細胞を紹介しました。尿の採取には注意点がありますが、それを守ればとても楽に採取することのできる細胞源と言えるのではないでしょうか?
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