Personal(パーソナル) iPS こどもiPS細胞 | iPS細胞の安全対策と歯科分野への応用

COLUMNコラム

2022年9月26日

iPS細胞の安全対策と歯科分野への応用

歯や歯肉、歯槽骨などを含む歯周組織の再生技術は、歯の欠損や歯周炎といった疾患の治療への応用が期待されています。
今回は、iPS細胞の歯科分野への応用について論じた論文「 Dental applications of induced pluripotent stem cells and their derivatives 」をご紹介します。


iPS細胞の腫瘍化と対策

細胞分裂を制御する遺伝子の変異などにより、細胞増殖のブレーキが利かなくなる現象を腫瘍化と言います。遺伝子損傷や細胞分裂時のDNAのコピーミス、細胞分裂の過剰な促進などが原因となります。
iPS細胞から目的の細胞に変化(分化)させる過程で腫瘍化することがあり、腫瘍化したものを移植すると、患者さんの体内でがん(悪性腫瘍)になる恐れがあります。そのため、iPS細胞腫瘍化の克服が実用化における課題となっており、以下ような要因が腫瘍化の確率を高めることが分かっています。
●iPS細胞作成時、細胞内に入れたリプログラミング因子(細胞を初期化し、多能性を持たせる遺伝子)が、意図せず細胞の遺伝子に組み込まれたことによる遺伝子変異、リプログラミング因子による細胞分裂の過剰な促進
●iPS細胞が目的の細胞に変化しきれていない(未分化)状態になること
●臨床利用のために、iPS細胞を拡大培養する過程で生じる遺伝子変異

そしてiPS細胞の腫瘍化リスクを減少・排除する有効な対策として、以下のような手法が開発・使用されています。
●遺伝子に干渉しないリプログラミング(細胞を初期化する)方法
●発がん性の低いリプログラミング因子への代替
●マーカー(細胞の種類の目印となるタンパク質や遺伝子)を使い、目的の細胞に変化できたiPS細胞を選別する方法

また、ある程度系譜が定まった幹細胞(NCC:神経堤細胞、MSC:間葉系幹細胞 など)をiPS細胞から作り、そこから目的の細胞に変化させると、腫瘍化を抑えられることが報告されています。


iPS細胞の歯科分野への応用

歯周組織の細胞は採取しやすいため、iPS細胞の材料として適しており、実際にさまざまな歯周組織(口腔粘膜や歯肉、歯根膜など)に由来する細胞からiPS細胞が作られています。作られたiPS細胞は、培養の際に土台となる素材や添加する物質、一緒に培養する細胞などを選択することで、目的の歯周組織細胞に変化させることができます。

また胎児マウスの歯の細胞やMSCなどを、iPS細胞やiPS細胞から作った上皮(体や臓器の表面を覆う組織)と組み合わせ、大人マウスの腎臓に移植して約3、4週間育成した結果、エナメル質や象牙質、歯髄(歯の最深部)などを含み、歯に似た構造を持つ組織が形成されたという報告もあります。

発生初期の胚に一時的に現れるNCCは歯周組織の由来となり、歯の形成や発達に関わるため、歯周組織再生の理想的な資源として期待されています。NCCから歯周組織の幹細胞(歯髄幹細胞など)に似た細胞を作ることができ、また歯周組織由来iPS細胞からNCCに似た細胞の作成も可能ですが、効率化が難しいのが現状です。今後の技術の発展のために、iPS細胞由来NCCが多様な歯周組織細胞に変化するメカニズムの解明が重要になります。

また歯周炎で歯槽骨(歯の土台となる骨)が溶ける場合もあるため、骨の再生も歯科治療に活用できます。iPS細胞から作ったMSCにリン酸カルシウムを加えて培養すると、骨を作る能力(石灰化など)が上がることが報告されており、iPS細胞由来MSCの歯科再生医療への応用が期待されています。

患者本人の細胞から作ったiPS細胞を使えれば理想ですが、それには時間を要するため、さまざまな人から提供された細胞でiPS細胞の作成・貯蔵を行うセルバンクという機関の活用で効率化を図れます。他者由来のiPS細胞を移植する場合、患者とのHLA(ヒトの白血球にあり、自他を識別する目印となるタンパク質)の型の違いを考慮して、遺伝子編集によるユニバーサルドナー細胞(誰にでも移植できる細胞)の作成や、患者と移植細胞のHLA型の合致を行うことで、免疫による拒絶反応を抑えることができます。


原著論文

Pan Gao, Shan Liu, Xiaoyi Wang, Makoto Ikeya, Dental applications of induced pluripotent stem cells and their derivatives, Japanese Dental Science Review, 58, p162-171, 2022 [ DOI: https://doi.org/10.1016/j.jdsr.2022.03.002 ]


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