最終更新日: 2024年05月13日
iPS細胞を治療に用いることで、かつては治療できなかった病気も治せるようになると期待されています。新しい治療法であるために、安全性の向上が重要視され、現在でもより良い方法にしていくための研究が活発に進められています。
今回は、iPS細胞を用いた治療の安全性について、懸念される問題と対策について紹介していきます。
細胞・DNAの損傷
iPS細胞を樹立する過程で、リプログラミング因子と呼ばれる4種類の遺伝子を、材料となる細胞に導入することをリプログラミングといいます。その際に導入したリプログラミング因子が細胞のゲノムDNAに組み込まれてしまうことがあります。ゲノムDNAにリプログラミング因子が組み込まれると、細胞のゲノムDNAが本来持っていた遺伝情報を傷つけてしまいます。また、一時的に働くべきリプログラミング因子が長期にわたって残存することによって、予期せぬ問題を引き起こす可能性が懸念されました。
このような問題への対策として、多くの改良リプログラミング法が開発されており、現在、主流になっている方法のひとつがRNAを用いたリプログラミング法です。RNAはゲノムDNAに組み込まれることがないため、DNAを傷つける心配がほとんどありません。また細胞内で速やかに分解されるため、導入因子が長期残存する可能性も低く抑えられます。
腫瘍化
次に、移植した細胞が腫瘍を形成する恐れが指摘されています。リプログラミングの過程では、細胞のゲノムDNAを傷つけてしまう可能性、長期にわたってリプログラミング因子が残存する可能性が懸念されていました。このDNAについた傷や残存したリプログラミング因子によってiPS細胞が腫瘍化する可能性が指摘されています。
この問題に対しては、先に示したようにRNAを用いた導入方法によって克服することが可能です。また、リプログラミング因子に含まれる、がん原遺伝子(細胞の腫瘍化を招く遺伝子)を使用せず、代替因子を用いてリプログラミングを行うという方法も開発されています。
iPS細胞は活発に増殖する性質を持っています。本来iPS細胞は目的の細胞に変化させてから移植します。その中に、変化しきれていないiPS細胞が残存していると、移植した体内で増殖し、腫瘍を形成してしまう可能性があります。
この問題に対しては、移植する細胞の中から、変化しきれていないiPS細胞をなるべく減らすことが必要です。そこで、まずはしっかりと目的の細胞へと変化させる効率の良い方法の確立と、目的の細胞に変化できた細胞にマーカー(目印)をつけて、選り分けるという方法が開発されています。
免疫拒絶
免疫拒絶とは、異物が体内に侵入した際に排除する免疫反応のことです。ウイルスなどが体内に侵入することを防ぐために備わった自然な反応ですが、移植治療の際、移植した細胞や臓器を異物と認識して免疫拒絶を示すことがあります。
iPS細胞を用いた移植治療には、患者本人ではなく他者由来の細胞を移植する他家細胞移植と、患者自身の細胞をもとに作成した細胞を移植する自家細胞移植の2種類の方法がとられています。
このうち他家細胞移植は、患者自身とは異なる細胞を移植するわけですから、拒絶を引き起こす可能性があります。そのため、免疫拒絶を抑制する目的で免疫抑制剤が必要となります。
もう一方の自家細胞移植は同一人物由来の細胞を使用しますので、免疫拒絶の心配はほとんどありません。それなら他家細胞移植は不要で、自家細胞のみを使用すれば良いようにも感じますが、自家細胞移植では、患者ごとにiPS細胞を作製する必要があり、治療までに時間を要します。
他家細胞移植と自家細胞移植には治療の準備過程と免疫反応において、それぞれ一長一短があり、適した場面ごとに使い分けられていくことになると思われます。
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