コラム

iPS細胞を使用したALS治療ー治療方法や開発状況、メリットを解説

最終更新日: 2024年05月13日

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、原因が十分に解明されていない神経難病のひとつです。根治的な治療が難しいことから、近年iPS細胞を用いた再生医療への期待が高まっています。iPS細胞は2006年に誕生して以来、さまざまな難病治療への実用化に向けて研究が進められてきました。ALS治療においてはまだ実用化に至っていませんが、有力な治療法として現在着々と研究が進められています。今回は、iPS細胞によるALSの治療方法や開発状況、メリットなどを解説します。

ALSは根治的な治療法が確立されていない神経難病

ALSは、体を動かすための運動神経(運動ニューロン)が障害されることで、全身の筋肉がやせていく病気です。手足やのど、舌の筋肉、さらには呼吸に必要な筋肉が動かせなくなっていきますが、原因は十分に解明されていません。日本では、患者数が約1万人と言われており、指定難病とされています。 ALSは症状の進行が極めて早いのが特徴で、個人差はありますが、約1~2年で自力での呼吸が困難となり、人工呼吸器を要すると言われています。薬物治療は症状の進行を遅らせる効果がありますが、根治的なものではありません。治療を早い段階で開始するのが望ましいですが、世間にあまり知られていない病気であるために受診が遅れ、早期診断が難しいとも言われています。このような根治的な治療が難しい状況から、近年、iPS細胞を用いた再生医療への期待が高まっています。

iPS細胞を用いたALSの再生医療

iPS細胞は、身体のさまざまな細胞や組織に成長できる、万能な細胞です。その能力を生かして、ALSによって失われた機能を回復させられるよう、iPS細胞による再生医療の開発が進められています。

ALSの運動ニューロンの障害には、「グリア細胞」が深く関わっていることが知られています。株式会社リプロセルは、独自の技術を用いてiPS細胞からiGRP細胞(iPS細胞由来グリア前駆細胞)に成長させることに成功しました。現在はALS患者への実用化を目指して研究開発を進めており、ALSモデルのラットを用いた非臨床試験を行っている段階です。ALS患者にiGRP細胞を移植する臨床試験も、今後開始される予定です。

iPS細胞による再生医療は、人の血液や尿などを利用するため、これまでの課題であった倫理上の問題がないことが特長です。また、患者自身の細胞からiPS細胞を作った場合、体内で異物として攻撃される「拒絶反応」が起きないメリットもあります。iPS細胞の作製に時間を要する課題はありますが、リプロセルでは事前に自分の細胞からiPS細胞を作製しておくことができる「個人向けiPS細胞作製サービス」も実施しています。一方、他人の細胞から作ったiPS細胞であれば、事前に作製して保管しておくことが容易ですし、iPS細胞は無限に増殖できるという特徴を有しているため、大量製造も可能です。ただし、元々は他人の細胞であったため、拒絶反応が起きる可能性はあります。

ALS患者のiPS細胞から新しい治療薬の候補が見つかる?

ALSに効果的な治療薬を探し出すために、iPS細胞が利用されています。ALSのような原因が解明されていない病気では、病態を完全に再現した動物モデルの作製が難しいとされています。そのため、動物実験で治療薬の効果を正確に調べられず、治療薬の開発が進まない状況にありました。

京都大学の研究グループは、ALS患者から採取した細胞でiPS細胞を作製し、運動ニューロンに成長させることに成功しました。ALSの病態をより再現したモデルを作製したことで、ALSの原因も少しずつ解明でき、新たな治療薬候補も発見できました。慢性骨髄性白血病の治療薬として用いられている「ボスチニブ」という薬で、現在はALS患者における効果や副作用を確認するための臨床試験が行われています。

iPS細胞を利用した実験はALSの病態の再現性が高いため、今後患者を対象とした臨床試験においても、病態モデルを使用した実験と同様に良い結果が得られることが期待されます。また、iPS細胞は無限に増殖できるという特徴があるため、病態モデルを無限に増やすことで何度でも実験を行えるというメリットもあります。

iPS細胞を用いたALS治療法の登場が待たれる

iPS細胞を用いた最先端のALSの治療法について紹介しました。現在は研究開発が着々と進められている段階で、まだALS患者が使える段階ではありません。今後一日も早く実用化され、ALSが治せる病気になることが期待されます。

 
   
 

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