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COLUMNコラム

2022年12月27日

iPS細胞を使ったパーキンソン病治療

iPS細胞は、万能性のない細胞(体細胞)から作られる万能細胞(多能性幹細胞)です。多様な細胞に分化できるiPS細胞は、さまざまな疾患の治療に使われ始めています。

今回は、パーキンソン病(PD)治療におけるiPS細胞の活用についてお話しします。

PDと現在の治療

私たちは、自分のしたい動きを自分の思うタイミングで行うことで、歩行や走行、ボール投げといった運動ができます。こういった自分の意思による運動の調節は、脳内の大脳基底核という部分で行われており、日常生活に欠かせないものです。

大脳基底核の黒質にあるドパミン神経細胞で産生・放出されるドパミンは、神経伝達物質(周りの神経細胞を興奮させたり、抑制したりする物質)の1つです。他の神経伝達物質と相互作用することで、筋肉を動かすタイミングなどを調節し、体の動きを制御しています。

PDでは、ドパミン神経細胞の異常によってドパミンが不足し、他の神経伝達物質とのバランスが崩れてしまいます。これによって運動の制御ができなくなり、筋肉のこわばりやふるえなど、自分の意思によらず体が動いてしまうようになります。

現在のPD治療は薬剤投与が主流であり、不足したドパミンの補充や代替、ドパミンの分解阻害や分泌促進などを担う化学薬剤が治療に使われています。

薬剤療法を含む現在の治療法の目的は、PDの症状を緩和して日常生活を送りやすくすることであり、根本的な治療を施すことはできません。

iPS細胞を使ったPD治療

現在、PDの完治に向けた新たな治療法として、iPS細胞の活用が期待されています。iPS細胞から作ったドパミン神経細胞のもと(ドパミン神経前駆細胞)を、PD患者の脳に移植する治療法が試みられ、すでに治験や臨床研究として、一部の患者さんへの処置が行われています。

これまでの治療は、ドパミンの働きを外から補うのが主流でしたが、iPS細胞を使えば患者さんのドパミン産生能力の改善が期待できます。このような根本的な治療ができれば、PDで寝たきりになる患者さんを減らすことができるかもしれません。

iPS細胞治療の臨床研究の進捗

現在、アメリカや日本でiPS細胞を用いたPD治療の臨床研究が行われています。

日本では2018年から現在にかけて、京都大学で医師主導治験が進行しています。薬剤の効き目が見られない患者さん7名を対象としており、他の健常者の細胞から作ったiPS細胞が使われています。

この治験では有効性も見られますが、主目的は安全性の評価です。治験では、移植したiPS細胞由来ドパミン神経細胞の腫瘍化の有無を見ます。移植後2年間は経過観察として、患者さんの行動や診断画像を定期的に見ながら、有害事象がないかを確かめます。

2022年1月11日時点の京都大学の経過報告では、安全性に関する懸念は出ていないとしています。

iPS細胞の薬剤スクリーニングへの活用

薬剤スクリーニングとは、多くの化合物の中から、治療の効果が高いものを選び取る作業のことです。

PDには、原因不明の孤発性(全体の90%)と遺伝による家族性(全体の10%)があり、家族性PD患者由来のiPS細胞でドパミン神経細胞を作ると、家族性PDのドパミン神経細胞を再現できます。

順天堂大学の研究グループは、そのドパミン神経細胞に320種もの薬を加え、病態改善効果が高い薬を4種見つけました。さらに、それらの薬をPDモデルのハエや一部の孤発性PD患者さんに投与すると、症状の改善が見られたと報告しています。 iPS細胞を使えば、患者さんに負担をかけずに病気の細胞を得られるため、薬をたくさん試したり、病気の研究を行ったりすることもできるのです。

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