最終更新日: 2024年05月13日
iPS細胞は体のさまざまな組織や臓器を作る細胞へと変化する能力を持っているため、多くの病気に対する再生医療や創薬開発の研究が進められています。脱毛症の治療においてもその実用化に向けて研究が進められており、今回は、iPS細胞を用いた脱毛症治療への応用の可能性について解説します。
脱毛症の種類
毛髪は、「毛包」と呼ばれるさやのような形をした立体組織の中で作り出されます。この毛包の内部には幹細胞が存在し、毛根において髪の毛の元となる毛母細胞をはじめ、毛包内のさまざまな細胞へと変化します。毛母細胞は寿命を持っており、人間では約2年から長くて7年程度の間存在します。この期間が終わると、髪の毛は自然に抜け落ちます。これを「毛周期」と呼びます。
脱毛症にはいくつか種類がありますが、多くの方が悩まされているのは「男性型脱毛症(AGA)」です。これは、男性ホルモンの影響で毛周期が短くなり、成熟した毛ができる前に抜け落ちてしまうため、特に思春期以降にこめかみの上部や頭頂部を中心に薄毛が進行します。免疫の異常が原因である「円形脱毛症」は、性別や年齢を問わずに発生することがあります。AGAおよび円形脱毛症の場合、幹細胞は生きているため、毛包を完全に再生しなくても新たに毛が生えてくることが期待できます。しかし、「瘢痕(はんこん)性脱毛症」は、専門外来でも比較的まれな病気で、この場合は幹細胞自体がダメージを受けてしまい、毛が完全に失われてしまいます。
iPS細胞を用いた脱毛症治療の進捗
研究者たちは現在、ヒトiPS細胞を使って毛包を再生し、頭皮に移植するという方法を開発しております。
最近、ある海外の研究グループが、ヒトiPS細胞から皮膚のような構造を持つ細胞を作り出し、これをマウスに移植して毛が生えるのを確認したと発表しました。
また、国内の研究グループは、自己の毛包の元になる細胞を薄毛の箇所に注入する再生医療に関する臨床研究を進めております。
しかし、iPS細胞から毛包を作り出すには、幹細胞や毛母細胞を含む多くの種類の細胞の作製が必要で、それぞれ異なる培養条件が求められています。また、毛包の複雑な3D構造(立体構造)を再現するためには、まだ多くの時間が必要です。
iPS細胞を用いた脱毛症治療に関しては、再生医療の領域だけでなく、創薬開発にも応用されています。国内の研究グループは、iPS細胞から作った毛包に、治療薬の候補を作用させることで治療薬を探す研究を行いました。ヒトから毛包を提供してもらう場合、量に限りがありますが、iPS細胞は自分自身を何度も複製し、増殖することができるので、iPS細胞から毛包を作ることで、多くの候補物質を試すことが可能になります。研究の成果として、重症の円形脱毛症への内服薬の治験結果を報告しております。
まとめ
全国で薄毛に悩む人は約1,600万人いるともいわれています。特に、病気やストレスなどが原因で毛髪のトラブルに悩む人はとても多いとされています。脱毛症は患者さんの生活の質に大きく影響する病気であるため、iPS細胞を用いた研究の進展と、それによって開発される新しい脱毛症治療が普及することが期待されています。
あわせて読みたい: