コラム

iPS細胞を使ったがん治療の方法とメリット

2023.1.11

身体のどんな細胞にもなることのできるiPS細胞は、多くの病気の治療法になるのではないかと注目を集めてきました。特に、ケガや病気などで失われた機能を取り戻すための再生医療の分野では目覚ましい発展を遂げ、すでに実際の治療に利用されています。最近では、がん治療においてもiPS細胞を利用した治療法の臨床研究が国内外で行われています。今回は、iPS細胞を使ったがん治療の方法とメリットについてわかりやすくまとめます。

がんに対する標準治療

がんは、日本人の2人に1人がかかる病気といわれています。がんになると、異常な細胞がどんどん増えて身体のあらゆる場所へ広がり、最終的には命に関わることもあります。がんに対する現在の標準治療は、主に手術療法、放射線療法、化学療法の3つです。医療の進歩により、早期に発見されたがんであれば、標準治療で治癒できることも増えました。一方で、標準治療のデメリットもあります。どの標準治療においても、がん細胞だけでなく、正常な細胞も傷つけてしまうことがデメリットです。そのため、がん細胞だけを攻撃できる治療法の開発に期待が集まっています。

iPS細胞を使ったがん治療の方法

最近、3つの標準治療に続く第4の治療法として免疫療法が注目されています。免疫療法とは、自分の身体の免疫を利用してがんを治療する方法です。免疫とは、私たちの身体の中に細菌やウイルスなどの異物が入ってくるのを防ぎ、健康を維持するシステムです。免疫療法では、自分の免疫を利用して治療するので、基本的に自分にとって異物であるがんを攻撃します。免疫療法が標準治療と異なる点は、副作用が少なく、身体への負担が小さいことです。 最近では、iPS細胞を使ったがん治療が注目を集めています。どのような治療法かというと、iPS細胞から免疫細胞であるT細胞やNK(ナチュラル・キラー)細胞を作り、がんを見分けて排除する方法です。T細胞もNK細胞も、全身をパトロールしている細胞で、がんやウイルスなどの異物を見つけると攻撃するはたらきがあります。自分の免疫を利用して治療するので、iPS細胞を使ったがん治療も免疫療法の1種と考えられています。

iPS細胞をがん治療に使うメリット

がんに対する免疫療法として、患者さん自身の血液からT細胞やNK細胞を取り出してから増やし、場合によっては作用を強化してから身体の中へ戻す方法も行われてきました。自分自身の細胞なので、安心して使用できるというメリットがあります。一方で、時間とコストがかかるというデメリットもあります。また、どの施設でも実施できるわけではありません。

iPS細胞を利用してT細胞やNK細胞を作る場合には、事前に同じ細胞を大量に作ることができます。つまり、iPS細胞を利用すれば、時間とコストの大幅な削減になるだけでなく、がん治療に免疫細胞を必要とする時にすぐ使えるように準備できます。

iPS細胞を利用したがん治療の臨床研究の進捗

iPS細胞を利用したがん治療の臨床研究は、日本国内外で行われ注目を集めています。日本では、2020年から千葉大学病院においてiPS細胞から作ったNKT細胞を頭頚部がんの治療に使用する臨床研究が行われています。NKT細胞とは、T細胞とNK細胞の要素を持った細胞で、攻撃力の高い免疫細胞のことです。

また、2021年から国立がん研究センターにおいて、iPS細胞から作ったNK細胞を卵巣がんの治療に使用する臨床研究が行われています。卵巣がんの中でも、卵巣明細胞がんはGPC3と呼ばれる特定のたんぱく質を多く発現することが知られています。このような卵巣明細胞がんの特徴を考慮し、iPS細胞からGPC3をよく認識するNK細胞を作成し、卵巣がん患者さんに投与することによって治療効果が出るかどうか検討が行われています。

アメリカではバイオ企業であるフェイト・セラピューティクスが、iPS細胞から作ったNK細胞を使って急性骨髄性白血病、B細胞性リンパ腫、進行性がんなどを治療する臨床研究を2019年から始めています。また、2021年からアメリカのミシガン大学でもiPS細胞から作ったNK細胞を使って卵巣がん治療を行う臨床研究が始まっています。

動物を対象にした研究では、iPS細胞を利用したがん治療の効果が明らかにされていますが、ヒトに対する効果はまだわかりません。現在、国内外で進められている臨床研究の結果に期待が高まります。

まとめ

iPS細胞からT細胞やNK細胞などの免疫細胞を作成し、がんを攻撃する治療法が注目を集めています。iPS細胞を利用すれば、時間やコストの削減になり、治療を必要とするがん患者さんに免疫細胞を安定供給することができます。現在、日本やアメリカでヒトを対象とした臨床研究が行われています。もし、iPS細胞を利用したがん治療の効果と安全性が証明されれば、がん治療の選択肢が増えることになるので、結果に期待したいです。

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