コラム

再生医療とは?iPS細胞による治療についても解説

最終更新日: 2024年05月13日

再生医療、iPS細胞どちらもよく耳にする言葉になりましたが、難しくてその全容が分からないという方も多いのではないでしょうか。日々研究が進められているため、内容は刻々と変化しており、付いていくのは簡単ではありません。

そこでこのコラムでは、そもそも再生医療とは何なのか、iPS細胞が再生医療の中でどのように位置づけられる細胞なのか、iPS細胞による具体的な治療例について紹介します。

再生医療とは?

再生医療とは「機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞を積極的に利用して、その機能の再生をはかるもの」と定義されています。つまり「けがや病気で失われた組織や機能の再生をはかる医療」という意味であり、広い内容を含んだ用語であることが分かります。

再生医療のイメージとして人工の臓器を作製して体内に移植する、という「未来」の治療が思い浮かぶかもしれません。これも確かに再生医療であり、実際にミニ腎臓やミニ肝臓といった研究も行われています。ただ再生医療は人工の臓器だけではなく、様々な治療法・医薬品を含む医療です。

再生医療には幹細胞移植など治療として提供されるものと、医薬品として提供されるものがあります。医療機関等で治療として提供される再生医療は保険診療で行われるものと自由診療で行われるものがあり、「再生医療等安全性確保法」によって規制管理されています。一方医薬品は厚生労働省により認可されることで保険適応・提供可能となり、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」によって規制管理されています。

厚生労働省が定める再生医療の医薬品は「再生医療等製品」と呼ばれます。再生医療等製品には「細胞医薬品」と「遺伝子治療薬」があります。次に具体例を紹介します。

承認されている再生医療等製品

・自家培養表皮

2007年に製造販売の認可を受け、2009年1月に保険収載された医薬品です。自分の皮膚の一部を採取し、培養してシート状にしたものです。重症のやけどなどでは、皮膚が欠損するため植皮(正常部分の皮膚を取ってきて移植する)による治療が行われます。しかしやけどが広範囲である場合、覆うことのできる範囲には限りがあります。そこで自分の皮膚を培養して増やすことができれば、広範囲で重症のやけどを治療することができるようになります。細胞を利用する「細胞医薬品」の一つです。

・イエスカルタ(CAR-T治療法)

2021年1月に承認された医薬品で、患者さんの血液にあるT細胞(免疫を担当するリンパ球の一種)に遺伝子を導入することで、血液のがん細胞を積極的に攻撃するように性質を変化させたものです。一度体外に取り出した血液に処置を行い、再度体内に戻してがんを治療します。「遺伝子治療薬」の一つです。

iPS細胞を使った再生医療

上に挙げた例のように、再生医療では細胞を積極的に使用します。iPS細胞は高い多分化能(色々な細胞に育つことができる)と自己複製能(増殖する力)を持つため、再生医療の細胞源として高い注目を集めています。2023年9月現在保険適応として承認された製品はまだありませんが、現在も多くの臨床研究が進んでいます。

・加齢黄斑変性

眼の病気である加齢黄斑変性は、網膜の変性によりものが見づらくなる病気です。網膜を取り替えることはできないので、現時点では有効な治療法がありません。そこで網膜の中心部にある黄斑という部分の細胞をiPS細胞から作り、病変部へ移植する治療が考案され、2014年には初の移植治療が行われています。その後治療の安全性が確認され、iPS細胞による再生医療として最も進んでいる分野と言えます。

・パーキンソン病

神経細胞の減少や機能異常により、脳内のドーパミンが不足することで発症する病気です。症状を軽減させる薬剤はありますが、根本的な治療法がありません。そこでiPS細胞から作り出された神経細胞を脳に移植する方法が考案され、2018年10月に初の手術が行われました。

その他iPS細胞から作製した心筋細胞シート、iPS細胞から作製した血小板輸血など新たな治療法が開発されています。iPS細胞は世界中で研究の対象となっており、再生医療の中心的な位置にあると言える細胞です。さらなる研究の発展が期待されています。

 

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