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COLUMNコラム

2024年1月18日

iPS細胞で腎臓は再生できる?

腎臓は、血液中の老廃物を除いて尿を生成し、塩分やミネラルのバランスや血圧を調節することで、私たちの体にとって非常に重要な役割を果たしています。さらに腎臓は、赤血球を作るためのホルモンや、骨を強くするために大切な活性化ビタミンDも作っています。腎臓はいったん機能が低下すると回復は困難であり、病気が進行すると透析治療や腎移植などが必要になることがあります。

iPS細胞は、2007年に京都大学の山中伸弥教授によって開発されました。この細胞は、体のさまざまな組織や臓器を作る細胞へと変化する能力を持っているため、多くの病気に対する再生医療や創薬開発の研究が進められております。最近では、腎臓の治療においてもiPS細胞を利用した研究が進行中です。

今回は、iPS細胞を用いた腎臓治療への応用の可能性について解説いたします。


iPS細胞を用いた腎臓治療研究(細胞治療)の進歩

腎臓は30種類もの細胞から作られて、複雑な構造をしております。それによって、上述のように様々な機能を有しています。その中でも、腎臓の重要な役割の1つとして、血液をろ過し、不要な水分や老廃物を尿として排出することが挙げられます。近年の研究によると、マウスiPS細胞からこの役割を果たすための前段階の細胞を作製し、これをマウスの腎臓の周囲に移植することで、腎障害の治療に役立つことが明らかとなりました。さらに、ヒトiPS細胞からも同様の特別な細胞を作ることに成功しています。

現在、大学や企業によりヒトiPS細胞を用いた慢性腎臓病への細胞治療に関する臨床研究の準備が進行中で、大きな期待が寄せられています。


iPS細胞を用いた腎臓治療のための創薬研究の進歩

iPS細胞を用いた腎臓治療に関しては、再生医療の領域だけでなく、創薬開発にも応用されています。多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)は、腎臓に多くの嚢胞(水がたまった袋状のもの)が形成される遺伝性の病気です。この病気は進行性で、嚢胞の増加に伴って腎臓の機能が徐々に低下し、最終的には多くの患者が透析治療を必要とします。日本国内では、この病気の患者数が3万人を超えると推定されています。現在の治療薬では病気の進行を完全に止めるのは難しく、新薬の開発が課題となっています。

京都大学のグループは、多発性嚢胞腎の患者からiPS細胞を樹立し、この細胞から腎臓の一部の組織を作製することで、病気の再現に成功しました。この組織を用いて、他の病気で使われている薬に治療効果がないか試したところ、白血病の治療薬の一種が腎臓の機能の低下を抑える可能性があることを明らかにしました。現在、このグループはこの病気の患者に対する治験の準備を進めております。


まとめ

日本国内には約1,300万人の慢性腎臓病の患者さんがいます。成人の7人に1人が患者さんであり、これは新しい国民病とされています。徐々に病状が進行するため、34万人以上の患者さんがすでに透析治療を受けており、多くの患者さんがライフスタイルに合わせながら治療を続けています。慢性腎臓病には有効な治療法がほとんどなく、病状は基本的にそのままか、または悪くなるかのどちらかになります。今後、iPS細胞を用いた新しい腎臓治療の普及により、透析に頼る患者さんをできる限り減らすことが期待されています。

 
 
 

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