最終更新日: 2024年05月13日
脳梗塞は、脳の血管がつまることで脳の一部が死んでしまう病気です。脳梗塞は命に関わる可能性があるだけでなく、手足の麻痺のような重い後遺症を残す場合があります。iPS細胞は、身体のさまざまな細胞になることができる万能な細胞なので、脳梗塞で機能しなくなった脳を再生する治療法に活用できるのではないかと注目を集めています。
今回は、間葉系幹細胞やiPS細胞を使った脳梗塞の治療法についてわかりやすくまとめます。
脳梗塞とは?脳卒中との違いは?
脳卒中は、日本人の死因の上位を占める病気なので聞いたことのある方も多いかもしれません。脳卒中とは、突然脳の血管がつまったり、破れたりすることによって引き起こされる病気の総称で、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が含まれます。脳卒中のなかでも脳梗塞の占める割合は高く、高齢化や食生活の欧米化などの影響もあり、現在も増加傾向にあります。脳梗塞を発症すると、手足の麻痺や言語障害、物忘れなどのような重い後遺症が残り、生活の質の著しい低下につながる場合があります。言語障害とは、言葉をうまく話せなくなったり、言葉の意味を理解できなくなることです。
脳梗塞を発症したばかりの時には、つまった血管を再開通させる治療が行われます。しかし、脳梗塞で十分な血液が届かなくなった脳の細胞は時間経過とともに死んでしまうことが多く、残念ながら一度死んだ脳細胞は再生しません。脳梗塞の治療をしても症状が改善しない場合には、後遺症として残ります。脳梗塞後の後遺症に対しては、失われた機能を回復させる目的でリハビリが行われますが、完全に健康な状態に戻す治療法は現時点ではありません。
脳梗塞の治療法として期待される再生医療
再生医療は、病気やけがなどで従来の機能が失われた組織や臓器を再生させる医療のことで、新しい治療法として期待されています。脳梗塞に対しても、死んでしまった脳の細胞を再生できれば、脳梗塞の治療法になるのではないかと考えられています。しかし、現時点では再生医療に使用する細胞などで脳梗塞に対する医薬品として承認されているものはありません。ヒトに対して再生医療を行う場合には、安全性や有効性などを慎重に評価する必要があり、クリニックや大学病院などで自由診療や研究として行われています。脳梗塞の治療に対する再生医療では、間葉系細胞やiPS細胞などが使用されます。
間葉系幹細胞を使った脳梗塞の治療
間葉系幹細胞は身体の中に存在する細胞で、骨や軟骨、脂肪細胞などに分化することができます。間葉系幹細胞を患者さん自身の骨髄や脂肪組織から採取し、培養してから静脈内に投与すると、血液の流れに乗って傷ついた脳の場所に集まり、神経の再生や保護をするので脳の機能回復を期待できると考えられています。また、間葉系幹細胞を投与すると、脳の血流を改善する効果や炎症を抑える効果もあるといわれています。
間葉系幹細胞を使った脳梗塞の治療を行っているクリニックもあります。ただし、現時点では保険が利かない自由診療になるので、事前に治療費用を確認した方がよいです。
また、大学病院のなかには、脳梗塞を発症して間もない患者さんの骨髄から採取した幹細胞を培養してから、脳内に直接投与する治験を行っているところもあります。治験の結果が良ければ、間葉系幹細胞を使った脳梗塞治療が国から承認を受けられるかもしれません。
iPS細胞を使った脳梗塞の治療
iPS細胞は、さまざまな組織や臓器に分化することのできる万能な細胞です。神経細胞に分化させたiPS細胞を脳梗塞を発症した患者さんに投与すれば、傷ついた脳の神経を再生するのではないかと期待されています。動物を用いた研究では、iPS細胞が脳梗塞後の神経細胞を修復し、機能回復を認めたことがすでに報告されています。今後ヒトに対して投与するためには、有効性や安全性を慎重に検討する必要がありますが、脳梗塞に対する新しい治療法として期待されています。
まとめ
脳梗塞を発症すると、命が助かったとしても重い後遺症により日常生活の質が下がってしまう場合も多いです。現時点で、保険適用となっている治療法には死んでしまった脳の機能を元通りにするものがありません。脳梗塞に対して、間葉系幹細胞やiPS細胞を使用した再生医療を行えば、脳の神経を再生することができるのではないかと考えられています。今後の治療実績の蓄積や治験の結果、さらなる研究によって、脳梗塞の新しい治療法として間葉系幹細胞やiPS細胞が承認されることが期待されています。
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