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COLUMNコラム

2022年12月8日

iPS細胞を使った脊髄損傷治療

研究が進み実用化が広がるiPS細胞による再生医療。

さまざまな難病や、治療が困難である病気に対する応用が試みられています。

治療が困難なのは病気だけではありません。

ケガの中にも治療が難しく、後遺症を残してしまうものが数多くあります。 その一つが脊髄損傷です。脊髄損傷による下半身麻痺、四肢麻痺といった症状は改善することがなく生涯残る後遺症となってしまいます。若い年齢で受傷することも多く、人生への影響が非常に大きいものとなってしまいます。

ここでは、iPS細胞を使った脊髄損傷治療について解説していきます。


脊髄損傷とは

脊髄とは、脳とからだをつなぐ神経の束のことです。脳から出た「脊髄」は「脊椎(いわゆる背骨)」の中を通り首から背中、腰の方へと伸びていきます。その途中で腕やからだ、足の方へ神経が分岐して到達し、手足を動かすための運動の指令を届けたり、逆に手足からの感覚を脳へ届けたりする役割を担っています。

脊髄損傷は転落や交通事故などにより、脊髄に対して強い圧迫や外力が加わることで発症するケガのことで、日本では年間約5000人、世界では年間25万~50万人の方に起きています。神経が障害されるため手足の症状が起こります。

症状は神経が障害される場所や程度によって異なり、軽症では手足の軽いしびれくらいですむ場合もありますが、重症の場合下半身麻痺のため車いす生活になる、四肢麻痺のため寝たきりで人工呼吸器を装着するといった事態になることもあります。


脊髄損傷の標準的な治療法と課題

脊椎に強い外力がかかり骨折や脱臼となり発生した脊髄損傷に対しては、脊椎の固定術や脊髄の圧迫を解除する手術が行われます。ただしこれらはさらなる症状の悪化を予防するための処置で、直接的に脊髄を治療する方法ではありません。

脊髄は一度損傷されると、修復のための反応が起きづらいばかりか、再生を阻害する因子を有し、細胞が死にいたる1)ため、大きな回復を望むことはできません。脊髄損傷を直接治療する方法は現時点では無いのです。

確定してしまった症状は生涯残る後遺症となり、その後は残された能力でいかに生活するかという点を中心にリハビリテーションが行われます。症状が確定する前に神経の障害を軽減するため、かつては受傷早期にステロイドを大量に投与する治療法が行われましたが、有効性と安全性の問題から現在では推奨されていません。


iPS細胞を使った脊髄損傷治療

直接的な治療法のない脊髄損傷に対して、日本では世界に先駆けてiPS細胞による治療が試みられています。

慶應義塾大学では、iPS細胞から神経の元となる細胞(神経幹細胞、前駆細胞)を誘導することに成功し、その細胞を損傷した脊髄に直接移植することで動物実験では大きな機能回復を得ることができました。

そのメカニズムには移植されたiPS細胞由来の細胞が神経に成長して働くことだけでなく、損傷された神経同士をつなぐ働き(シナプス形成)や、細胞が成長する過程で分泌される因子が神経の再生を誘導する働きを持つ1)ことが指摘されています。これらはあらゆる細胞に成長することのできるiPS細胞だからこそ達成できる働きと言えるでしょう。


実用化が迫るiPS細胞による脊髄損傷治療

動物実験でiPS細胞による脊髄損傷の治療効果が示されたのが2012年。その後約10年の歳月を要し、ついに人への応用が可能になりました。高い安全性を確保するために慎重な条件検討を繰り返し、長期間を必要としました。

2021年12月初めて治療が行われ、術後3ヶ月時点で「安全性に問題なし」という結果が出ています。有効性について今後1年かけて評価されていく予定です。この臨床研究では4人に治療が行われる予定となっており、2人目以降の受付が開始されています。

まさに神経の難病とも言える脊髄損傷。iPS細胞による新たな治療が患者さんの未来を変える日も遠くないのかもしれません。

 
   
 

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