iPS細胞とは?- 歴史や実用化を簡単にわかりやすく解説 – | 【公式】パーソナルiPS

COLUMNコラム

2022年7月26日

iPS細胞とは?- 歴史や実用化を簡単にわかりやすく解説 –

病気や事故、生まれつき臓器や組織が損なわれたとき、失われた臓器や組織を作り出す再生医療。新しい治療法である再生医療の実現のために、世界中で研究がされてきました。iPS細胞はさまざまな細胞に分化できる「多能性幹細胞」のひとつです。
今回は、このiPS細胞について簡単に解説します。

iPS細胞とは

2006年に京都大学の山中教授によって作製された新しいタイプの多能性幹細胞です。iPS細胞は「人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell)」の略名で、皮膚や血液などさまざまな細胞に分化する能力を持ちます。
体にあるすべての細胞は受精卵が元になっていますが、通常は特定の細胞に分化すると元の状態に戻ることはありません。iPS細胞とは、体の細胞に特定の遺伝子を導入し、受精卵に近い状態に戻すことで、さまざまな細胞に分化する能力と無限に増殖する能力を持たせた細胞です。このように人工的に体細胞を多能性幹細胞に誘導することを「リプログラミング」といいます。

iPS細胞が作製された背景

近年医学はますます発達していますが、病気やケガなどにより失われた臓器の再生には至っていません。言い換えれば、再生医療の発展でより多くの病気やケガの治療が可能になるのです。世界では数十年前から再生医療の研究がされており、1981年にはイギリスのケンブリッジ大学にて、マウスの胚細胞からES細胞(胚性幹細胞:Embryonic stem cell)の作製に成功しました。また、1998年にはアメリカのウィスコンシン大学にてヒトES細胞の作製が成功しました。
ES細胞の作製には不妊治療で廃棄予定の受精卵を使用するため、いくつかの国で規制がかかっています。
このような背景のなか、受精卵を経ない多能性幹細胞の作製が研究され、日本でiPS細胞の作製が成功しました。

iPS細胞とES細胞の違い

再生医療のテーマの中でもよく取り上げられるのが、ES細胞とiPS細胞です。両者は性質が極めて近い多能性幹細胞であり、あらゆる細胞に分化する能力と高い増殖能力を持ちます。
細胞を使った治療には他人の細胞を用いる他家治療と、自身の細胞を用いる自家治療があります。前述したように、ES細胞は受精卵から作製するため、治療に用いる場合、すべて他家治療となります。他家治療では、免疫拒絶のリスクを抑えるため、免疫抑制剤の投与が必要になります。一方でiPS細胞は、皮膚や血液など採取しやすい細胞から作製することが可能です。他家治療も自家治療も行うことができ、患者さん自身の皮膚などの細胞から作製して自家治療に使う場合、拒絶反応が起こりにくいメリットがあります。

iPS細胞の安全性について

iPS細胞の実用化にあたって、特に重視しなければならないのが安全性です。これまでiPS細胞は、リプログラミングの過程で特定の遺伝子を加えるため、遺伝子に傷がついてがん化する懸念がありました。現在では遺伝子を傷つけないリプログラミング方法が開発されています。
パーソナルiPSでは、RNA法と呼ばれるリプログラミング方法を行っており、遺伝子を傷つけるリスクはありません。
パーソナルiPSのリプログラミング方法についてはこちら

今後のiPS細胞の実用化

iPS細胞は再生医療分野の中でも画期的な存在であり、実用化のための研究が行われています。臨床試験(ヒトに投与する試験)の段階では、2014年には加齢黄斑変性の患者さんにiPS細胞由来の網膜の移植が行われました。2018年にはパーキンソン病の臨床試験にも用いられています。そのほかにも、心筋症や心不全などの心疾患、血小板減少症や移植片対宿主病などの血液・免疫系疾患なども既に臨床試験が実施されています。がん治療の臨床試験も多く、白血病などの血液がんのほか、多種の固形がんに対しても臨床試験が行われています。

※2022年4月時点

iPS細胞は再生医療以外に、創薬研究にも利用されています。病気の患者さんの細胞から作製したiPS細胞を使って治療薬の開発研究が行われており、ALSや、家族性アルツハイマーなど難治性の病気を治療できる可能性もあるでしょう。
iPS細胞はご紹介した細胞以外にもさまざまな種類の細胞を作ることができ、ミニ臓器を作製した報告もあります。人間の臓器は大きく立体的であるため、3Dプリンターの技術を組み合わせることで、達成できる日がくるかもしれません。

>>>パーソナルiPSについてはこちらで詳しく解説しています。

 
 
 

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