臨床試験から細胞医薬品ができるまで | 【公式】パーソナルiPS

COLUMNコラム

2023年9月6日

臨床試験から細胞医薬品ができるまで

ケガや病気の治療において、他者の正常な細胞や組織を移植する骨髄移植のような治療法は昔からよく行われてきました。しかし近年は、iPS細胞から欲しい細胞や組織を作り、移植する治療法が試みられています。こういったiPS細胞療法を実際の医療現場で使えるようにするには、iPS細胞の安全性や有効性を、医薬品同様に評価する必要があります。

今回は一般的な医薬品開発の流れに沿って、iPS細胞を含む細胞医薬品の開発手順、そして、iPS細胞を利用した医薬品開発の現状についてご説明します。


医薬品ができるまで

基礎研究で有効性が期待された薬や医療機器などは、まずマウスやサルなどの動物に試し、安全性や有効性を確認します。このような動物実験による試験を前臨床試験(非臨床試験)と言います。

前臨床試験で動物に対する安全性などが確認されると、次は臨床試験を行います。臨床試験とは、新しい薬や医療器具、治療法、診断法などを人に試し、安全性や有効性を確かめる試験のことです。

臨床試験はさまざまな目的で行われますが、その中でも新薬開発のために行われるものは治験と呼ばれます。新しい医薬品の製造販売をするには、その安全性や有効性を国に示し、厚生労働省の承認を得る必要があり、治験はこの承認を得るための臨床試験です。治験は第1相、第2相、第3相の3段階に分けられます。

第1相では、少数の健康な成人に薬を服用させ、薬の安全性や体の中での代謝(吸収性や排泄量など)を見ます。

次の第2相では、少数の患者さんに目的の新薬のほか、従来の薬や効果がない偽の薬(プラセボ)などを服用させて比較し、適切な用法や用量、プラセボ効果※1の有無などを調べます。

ただし、iPS細胞などの細胞を医薬品として使う場合や、抗がん剤などの一部の薬では、健常者ではなく患者さんを対象として第1相試験を行うため、第1相と第2相がそれほど区別されていない場合もあります。

第3相では、多数の患者さんに目的の新薬や従来の薬、偽の薬を服用させ、薬の安全性や有効性を確認します。ここでは新薬を服用した患者さんと、従来の薬や偽の薬を服用した患者さんを比較して、有効性や安全性、プラセボ効果の有無などを確認し、治験データの信憑性を固めます。

治験のデータを厚生労働省が確認して、安全性と有効性に問題がないと判断されれば、新薬が治療で使えるようになります。

※1:プラセボ(プラシーボ)効果 効果のない薬で効果が見られる現象。思い込みや自然治癒などが原因とされていますが、詳しくはよく分かっていません。治験でこれがあると、薬の有効性を正しく評価できなくなります。


iPS細胞を使った医薬品開発の現在

ケガや病気で壊れた体の組織を再生することで、治療を行う医療を再生医療と言い、iPS細胞は再生医療を担う次世代の医薬品として期待されています。

iPS細胞を使った医薬品の治験は現在進行形で進んでいます。以下に、日本国内で進行している治験の一部をまとめました。

 *iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の移植によるパーキンソン病治療(京都大学)

 *iPS細胞由来心筋細胞の移植による虚血性心疾患治療(大阪大学など)

 *iPS細胞由来ナチュラルキラーT細胞を用いた頭頸部がん治療(千葉大学・理研)

最も治験が進んでいるものでも第2相試験までで、まだ厚生労働省の承認を得たものはありません。そのため、私たちはまだiPS細胞を使った治療を受けることができません。

リプロセルでは、医薬品としてのiPS細胞の製造販売は現在行っていませんが、iPS細胞が使えるようになった未来に備え、個人に向けたiPS細胞の作製・保管サービス「パーソナルiPS」を提供しています。 また当社では現在、iPS細胞から作った神経組織細胞(グリア前駆細胞)を、神経疾患の1つであるALSの治療に使うため、前臨床試験を行っております。

 
   
 

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