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COLUMNコラム

2023年4月10日

iPS細胞はがんをどのように治す?「NK細胞とがん治療」

進歩が著しい医療界では、あらゆる方面でiPS細胞の利用が検討されています。今や2人に1人がかかるとされる「がん」の治療についても例外ではありません。

自ら様々な細胞に成長し、増殖することのできるiPS細胞はどのようにがんを治すのか。この記事では、iPS細胞とがん治療の関係、リンパ球の一つであるNK細胞によるがん治療について解説します。


がん免疫療法とiPS細胞

iPS細胞が活躍するがんの治療、それはがんの免疫療法です。

従来からがん治療の中心であり、多くの実績があるのは「手術」「放射線治療」「化学療法(抗がん剤)」の3つです。手術や放射線による体への負担や、化学療法による副作用などが問題となる中「第4のがん治療」と呼ばれ発展しているのが免疫療法です。

免疫とは体内に外敵や異物が侵入した時に、体を守るために働く仕組みのことです。例えばウイルスや細菌が体内に侵入すると免疫が働き、排除してくれます。かぜをひいても短期間で治癒するのは免疫のおかげなのです。

しかしがんを短期間で治すことは難しく、体内で少しずつ成長してしまいます。がん細胞も異物であるはずなのに、なぜ免疫が働かないのでしょうか。それは、がんはいくつもの方法を使って免疫が働かないように作用しているからです。ブレーキをかけられた免疫細胞はがん細胞を排除しきれず、がんが体内に残ってしまうのです。

がんの免疫療法はがんに対する免疫を正常通り作動させるため、人の免疫に働きかける方法です。「免疫チェックポイント阻害薬」や「樹状細胞ワクチン療法」などがありますが、注目を集めている手法に「活性化自己リンパ球療法」があります。 免疫を担当するリンパ球を活性化したり、補充したりすることで体内のがんに対する免疫を高めようとする手法です。これまではリンパ球を培養して増やすことが簡単ではなく、治療の普及は限定的でした。しかしiPS細胞からリンパ球を誘導することができれば、理論的にはいくらでもリンパ球を治療に使用することができます。


がんに対するNK細胞療法とは

免疫を担当するリンパ球の一つに、「NK細胞」があります。NK細胞はナチュラルキラー細胞の頭文字を取った言葉で、リンパ球の10-30%を占めています。体内に侵入した病原体や異物を発見し、いち早く攻撃する「自然免疫」という機能を担っています。

NK細胞はキラー(殺し屋)という名前がつけられていることからも分かる通り、強い攻撃力を持った細胞です。がん細胞に対しても殺傷する能力が高いと考えられています。

しかしながら加齢の影響や、がんを罹患していることによるストレスなどが原因で、がん患者さんではNK細胞の働きが低下しています。そこで患者さん自身のNK細胞を取り出し、体外で増殖させて再び体内に戻す「NK細胞療法」が開発されました。 高い効果が期待されたこの治療法は、九州大学で臨床試験が行われました。しかし、NK細胞は他のリンパ球と比較して培養が難しいため、どのように増殖させ数を確保するのかという点が課題になります。そこで、iPS細胞からNK細胞を誘導しようという考えに至るのです。


iPS細胞に由来するNK細胞によるがん治療

京都大学iPS細胞研究所の研究グループは、iPS細胞から分化させたNK細胞を卵巣がんの患者さんに使用する治験を実施しています。この治験では、多くの卵巣がんが持つたんぱく質を認識させるため「CAR遺伝子導入」という手法が取り入れられています。

(CARについては次回のコラムで詳しく説明します)

また、サンディエゴのFate Therapeuticsというバイオ医薬品会社では、様々な進行がんに対してiPS細胞に由来するNK細胞製剤を使用する試験を実施しました。その中では、前述した「免疫チェックポイント阻害薬」と組み合わせる手法も試験されています。

近年がんの治療は大きく発展し、亡くなる病気から共に生きる病気へと変化してきています。iPS細胞に関する研究の発展と普及により、がん治療に新たなブレイクスルーがもたらされる日も遠くないかもしれません。

 

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