コラム

ノーベル賞受賞のmRNAワクチンとiPS細胞の意外なつながり

最終更新日: 2024年05月13日

2023年のノーベル生理学・医学賞は、新型コロナウイルス感染症予防のためのワクチン開発に大きく貢献をした研究者へ授与されることが決定しました。本ワクチンは、無毒化あるいは弱毒化した病原体やその一部を接種する従来のものと異なり、mRNA(メッセンジャーRNA)を用いた全く新しい作用機序に基づくワクチンです。

今回は、mRNAワクチンの解説および再生医療の発展に大きく期待されているiPS細胞との意外なつながりについて紹介します。

mRNAワクチンとは

mRNAは、細胞の核に存在し遺伝情報を含むDNAからコピーされて産生される物質です。さらにmRNAの情報を元に目的のタンパク質が作られます。mRNAワクチンは、病原体(新型コロナウイルスなど)を構成するタンパク質の遺伝情報を有するmRNAを接種するものです。接種されたmRNAワクチンを取り込んだ細胞は、その病原体を構成するタンパク質を大量に作りはじめます。免疫システムはこのタンパク質を異物として認識し、将来の感染に備えて免疫を獲得します。

mRNA技術を用いた新型コロナウイルスに対する迅速なワクチンの開発は、パンデミック禍における人類の健康へ大きく貢献したのみならず、本技術の応用範囲は他のウイルスに対するワクチン開発やがん治療など非常に幅広いです。この功績から、ワクチン開発に大きく貢献した米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ教授とドリュー・ワイスマン教授らは2023年のノーベル生理学・医学賞を贈られることが決定しました。

iPS細胞とmRNA

iPS細胞は、人工的に作製される幹細胞で、ほぼすべての組織・臓器の細胞に分化できます。iPS細胞の応用範囲は幅広く、再生医療(iPS細胞から傷ついた組織や臓器を作る)、新薬の開発(病気に関係する細胞に薬の候補物質を作用させて、効果や安全性を調べる)、病気の原因究明(患者さんのiPS細胞を病気に関係する細胞へ変化させ、その細胞の性質や異常が生じる過程を詳しく調べる)などに用いられています。

iPS細胞を作るためには、細胞を初期化(リプログラミング)させる因子を細胞に導入する必要があります。京都大学の山中伸弥氏により初めて作製されたiPS細胞は、細胞のリプログラミングに関わる4つの遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc:山中因子)を、レトロウイルスベクターと呼ばれる遺伝子の運び屋を用いて線維芽細胞に遺伝子導入していました。しかし、この技術では導入した遺伝子が核内のDNAに組み込まれてしまうことがあり、このうち発がんに関わる遺伝子が発現することで、腫瘍が発生するリスクが懸念されていました。

その後、iPS細胞作製のための様々な遺伝子導入法が開発されていますが、その1つにmRNAを用いた技術(mRNAリプログラミング法)があります。

mRNAリプログラミング法は、mRNAワクチンと同様に、細胞の初期化因子を作るための遺伝情報を有するmRNAを細胞に導入し、目的のタンパク質を発現させることでiPS細胞を作製するものです。この技術は、①mRNAは核の中に入らないため元のDNAに変異を生じさせない点、②mRNAは速やかに消失するためiPS細胞に残らない点より、腫瘍の発生リスクはほぼないという特徴があります。

   

パーソナルiPSでは、RNAリプログラミング技術を利用して個人のお客様向けにiPS細胞作製を承っております。

また、パーソナルiPSの運営会社である、株式会社リプロセルでは、研究者向け製品としてmRNAを用いたiPS細胞のリプログラミングキットを販売しており(https://reprocell.co.jp/product_index/reprogramming-nm)、さらに、企業向けのiPS細胞樹立サービス(https://reprocell.co.jp/ipsc-regenerative)も取り扱っております。詳細につきましては、各リンクをご参照ください。

 

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