コラム

iPS細胞を使った眼の治療

最終更新日: 2024年05月13日

現在、iPS細胞を用いた治療の研究が続々と実施されています。なかでも、眼の病気についての研究は進んでいて、治療が難しかった病気も治せる日がくると期待されています。

加齢黄斑変性

私たちの目では、受け取った光を網膜で電気信号に変換し、脳へと伝えることで視覚が成立します。

ものを見るために重要な機能を担う網膜の中心にある部位は、黄斑と呼ばれます。

加齢黄斑変性は、黄斑がダメージを受けて変化し、視力の低下が引き起こされる病気です。主に加齢によって発症します。

薬による治療、病変部を切除する手術やレーザー治療などがありますが、十分な効果が得られているとは言えない状況でした。 以上のような背景からiPS細胞由来の網膜を作製し、患者さんに移植するという治療のアイデアが考案されます。

2014年、理化学研究所などの研究グループは、本人の皮膚細胞から作製したiPS細胞から網膜色素上皮細胞(網膜を構成する細胞のひとつ)のシートを作り、網膜に移植する手術を行いました。

その結果は、治療が安全に行われることを支持するものでした。ちなみに、この研究はiPS細胞を用いた世界初の治療となりました。

その後、2017年に神戸市立医療センター中央市民病院など4機関は協同で、加齢黄斑変性の患者さんに対して、他人のiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞(RPE細胞)を移植する治療を実施しました。

最初の手術は、患者さん本人のiPS細胞が用いられた「自家細胞移植」であったのに対し、2017年の手術は他人由来のiPS細胞が用いられた「他家細胞移植」でした。

自家細胞移植では本人の細胞が用いられるので拒絶が起きにくいというメリットがあります。

いっぽうの他家細胞移植には、患者さんごとにiPS細胞を作製する必要がないので、簡便に手術を提供できるというメリットがあります。

また、アメリカのNational Eye Institute(NEI)は、2020年より加齢黄斑変性のiPS細胞を用いた治療について、日本のグループと似た研究をスタートしました。 まずは安全性を確認するため、5名の患者さんに対し手術を実施する計画です。

角膜上皮幹細胞疲弊症

目には、光を取り込むのに大事な役割を果たす角膜上皮という細胞が存在します。通常はダメージを受けても、細胞が次々に生まれ変わることで正常に機能しています。

角膜上皮幹細胞疲弊症は、病気やけがなどによって、細胞の生まれ変わりに必要な角膜上皮幹細胞が失われ、深刻な視力障害が生じる病気です。

現在、この病気を治せる薬などは存在せず、治療には角膜移植が必要とされていますが、提供される角膜献体数は少なく、また拒絶反応も問題となっていました。

2019年、iPS細胞から作製された角膜上皮細胞の膜を移植する治療が大阪大学で行われました。 4名の患者さんに対して、他人由来のiPS細胞から作られた角膜上皮細胞の膜を移植したところ、1年間の経過観察中に細胞のがん化、拒絶反応といった副作用は観察されず、一部の患者さんでは視力の回復も確認されました。

網膜色素上皮細胞

網膜を構成する細胞のうち、中心的な役割を果たすのは視細胞です。そして、視細胞に寄り添うように存在しており、視細胞の健康を保つのが網膜色素上皮細胞です。

網膜色素上皮細胞の機能不全が原因で、眼に障害が起こる様々な病気のことを網膜色素上皮不全症と言います。現時点では、網膜色素上皮細胞の働きを回復させる有効な治療法は存在しません。

2022年、神戸市立神戸アイセンター病院は、網膜色素上皮不全症患者に対し、iPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞を移植する手術を実施しました。

神戸アイセンター病院は、加齢黄斑変性の治療を行った機関を前身に、研究強化のために設立された病院です。

加齢黄斑変性の治療ではシート状の網膜色素上皮細胞を用いていましたが、この手術ではひも状に加工した細胞を使用しました。これによって、手術がより簡便に行えるようになり、また治療効果も向上することが期待されています。

網膜色素変性

視細胞や網膜色素上皮細胞といった光を感知するのに、特に重要な役割を担う細胞に遺伝子変異により異常が生じる病気です。

神戸アイセンター病院では、2020年から網膜色素変性の患者さん2名に対して、他家iPS細胞から作製した網膜シートを移植する手術を行い、移植1年後の経過を学会で報告しています。その内容は、手術が安全に行われ、視覚障害が改善される可能性を示すものでした。今後は有効性の検討をさらに進め、治療開発を目指す計画となっています。

水疱性角膜症

角膜内皮細胞の機能不全によって、角膜に液体が溜まり白く濁ってしまう症状を水疱性角膜症と言います。

現在、角膜移植が唯一の治療法とされていますが、移植用角膜の確保が課題となっていました。

慶應義塾大学は、角膜移植後に水疱性角膜症を再発した患者さんを対象に、iPS細胞由来の角膜内皮細胞の移植を計画しています。

 

私たちの日常生活にとって、視力は欠かせないと言っても過言ではありませんね。iPS細胞を用いた治療が普及することによって、眼の健康を保つことができる未来が待ち望まれています。

 

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